死にかける男 その1

これまでごく限られた人にしか話していませんでしたが、この1年で私は2回遺書を書きました。
といってもそこまで深刻な話ではなく、一応念のためというような遺書で、おそらく私の体の問題も今やほぼ解決したので、こうして文章にしようと思ったわけです。

この記事を書くにあたってはどうしようかなという迷いも少しあり、というのは私は小さいながらに会社の経営者なので、自身に関する悪いニュースを積極的に発表するのは良くないことだという気持ちがあり、またブログやSNSで自身の不幸を不特定多数に晒そうとする行為は、何だが注目を集めることが目的と見られるような気もして気が引けるような気持ちもありました。
しかしせっかく少しだけ「死ぬかも」という経験をしたし、色々な気付きもあったので、多分気付きの方の共有には少しくらいは価値があるかと思ったので、やっぱり文章にしようと思った次第です。

私がどうやって少しだけ死にかけたかという経緯も参考までに書きますが、この記事の中で、おそらくこの記事は数記事に分かれると思いますが、その中で最終的に私が言いたいことは主に2つです。

1つは、人はいつでも割と簡単に死ぬかもしれないということ。だから、やりたいことは今始めるべきだし、もし好きな人がいるのであればなる早で伝えておいた方が良いと思う。

もう1つは、海外旅行に行くときは必ず「海外旅行傷害保険」に加入するか、クレジットカード付帯のものであれば十分な補償であるかを確認しておくこと。

さて私に何があったかというと、私は「頸動脈血管壁乖離(かいり)」という病気、というよりは血管の内側の怪我で、約1年面倒なことになっていました。

▲フィンランド・ヘルシンキの病院にて 同室のオッチャン達の存在は救いだった

2016年12月3日、私はフィンランドのヘルシンキに滞在していました。
それはヘルシンキで開催される「Slush」という起業家のイベントを取材するための滞在で、12月1日に無事Slushの取材を終えた私は、その後約3週間の滞在期間をどうするか考えながら友人の家に居候をしていました。

▲世界中から投資家と起業家が集まる国際的なイベント「Slush」 しかしこの年は私が求めていたゲーム系のスタートアップ企業は少なかった

ヘルシンキの冬は寒い。
極地であるため日照時間がかなり短くそしてその光も弱く、日の光をあまり浴びていないこととSlushが終わって気が抜けたこととが相まって、私は若干府抜けたようになっていました。
人間は太陽をあまり見ないと鬱になるというのは本当で、軽く考えていた私も「こりゃちょっとまずいかも」と思い始めていました。

そんな私を心配してくれた友人が気晴らしにとクリスマスバザー巡りとスカッシュに誘ってくれ、その日は朝から連れ立ってヘルシンキ市内を回ることになりました。

▲午前中はクリスマスバザー巡り 仲間のビジネスの視察に付き合う

▲フィンランドの雑貨はめちゃオシャレだ

道中何となく右のほほが痛みましたが、私はそれを寒さのせいだろうと思っていました。右の奥歯あたりから右耳の横辺りの、骨の奥がシクシクと痛い。痛いといっても我慢できないほどではなく弱い鈍痛でしたので、そんなこともあるさと私は軽く考えていました。
或いは奥歯が虫歯になったのかなとも思い、「虫歯かもしれない」「ヘルシンキで虫歯の治療は高いよ、旅行者にとっては」というような会話をしつつ、16時前頃にスカッシュを終えた私たちは、ご飯を食べに行こうという話になりバス停でバスを待っていました。

私と、私を泊めてくれている友人、そしてヘルシンキに滞在中の大学生の男の子の3人でバスを待ちながら、他愛もない話をしていたと思います。
私はスカッシュでへとへとになり日ごろの運動不足を大いに反省もし、ヘルシンキに滞在している間もジョギングくらいはしておくべきか、などと考えていました。

そうしていると突然、
私の右目がすーっと暗くなりました。

一瞬何が起きているかが分からない。
右目の視界がすーっと、上から下に、カーテンを下ろすように真っ暗になりました。
恐らく15秒ほどで完全に右目の視界が真っ暗になりました。

あれ?眼鏡に何か付いたかな?と思い眼鏡を外しましたが、裸眼でも右目の視界は真っ暗。
右目の前に掌をおいて振ってみますが、やはり見えない。
右目を触ってみる。瞼は開いている。瞼は動く。瞼を動かしても視界に何の変化もない。痛みはない。気持ち悪い。

何だこれは、と思いながら頭を回して違う方向を見てみると、左目の視界は正常に移っていきますが、右目は何も見えない。

人間はこういう時に意外と冷静なもので、私はもう一度眼鏡をかけて、右目の瞼を開いたり閉じたりしながら、手を近づけたり、左目を瞑ったり、違う方向を見たりを1分ほど試してみました。
それから自分に今「めまい」が起きているのではと思い、頭を軽く上下に振ってめまいが起きていないことを確認。
右耳を触ってみると感触があります。
手袋をとり、左右の掌で左右のほほを覆ってみると感触があり体温も伝わってききます。

どうやら私の右目の視力が今突然なくなったらしい。そしてその他には今のところ異常はないらしい。

と結論付けた私は、友人二人に

「ちょっとごめん、驚かないで聞いて欲しいんだけど」

と言ってから、

「今、右目が突然見えなくなった」

と伝えました。

つづく