窓際族のすすめ
もう10年以上前の話になりますが、私の前の前の前くらいの会社の職場に、窓際族なオッサンがいました。
そのオッサンはその部署の長でしたが、隅っこの席で全く仕事をせずに、PCでネットサーフィンをしたりして日々過ごしていました。
喫煙室に頻繁に立ちあまり席におらず、会議ではほぼ発言せず、業務上の質問をしてもはぐらかす、みたいな感じでほぼ毎日窓際の席でぼーっと空気になっているようなオッサンでした。
部署内のスタッフの評判はあまり良くなく、ああいう風にはなりたくなくないよね、というような感じで見られていました。
嫌われているかといえばそうでもなくて、そこが大手系列の若干公務員的な雰囲気のある職場だったということもあり、まあ害は無いし毒にも薬にもならないだけで、というのがそのオッサンに対する評価でした。
私はというと当時は班長みたいな立ち位置で数人のスタッフをまとめねばならず、窓際のオッサンについて色々と思っているような余裕はありませんでした。まあなんか穏やかなオッサンおるわ、くらいの印象でした。
オッサンはこのまま定年になって退職金をたくさんもらって辞めていくんだろうなと思っていたある日、ちょっとした事件が起きました。
その部署で取り扱っていた案件に対して、大きなクレームが付いたのです。
経緯を精査すると明らかに相手のミスでこちらに落ち度はありませんでしたが、会社の力関係的に相手の方が強く、
「事前に予見できなかったそっちが悪い」
というような理屈で、取引の解消をちらつかせつつ圧力を掛けてくるというような状況でした。
部署全体が蜂の巣をひっくり返したような騒ぎになり、私も経緯の調査やら方々からかかってくる電話の一次対応やらで忙殺されていました。
相手の圧力が強くなるに連れ、部署内では役職者が1人、また1人と知らぬ顔を決め込みだし、
「当初担当した担当者が悪い」
「その話は俺に振るな」
というようなことを言い出し、何故か対応は徐々に組織の下の方に降りてくるというような状況になっていました。
このクレームに首を突っ込んで責任を取らされたくないという役職者だらけになり、明確な担当もいないままにほぼ平の若手が都度都度対応しているというような惨状で、一貫性の無い対応は更に相手のクレームに火をつけ、もはや当初の経緯はどうでもよくなり、
「とりあえずお前のところのその対応はなんだ!」
というクレームに対して、若手が謝り続けるしか無いというような状況になっていました。
多分これってある程度の大きさの組織になるとあるあるですよね?
さてそんな状況が1週間ほど続き、ああもうこれはダメですね、落とし所も見つかりませんわ、というような感じになったとき、
窓際族のオッサンが言いました。
「じゃあ僕がなんとかします」
・・・ん?
という顔で皆は互いの顔を見合いましたが、
とりあえずこのオッサンはこの部署の責任者だし、他に良い手があるわけでもないし、
ということで「お願いします」ということになりました。
で、オッサンはどこかに出て行って、数時間して帰ってきて
「大丈夫になりました」
と言ってネットサーフィンを再開しました。
後から聞いた話では、オッサンは昔はやり手だったそうですが、最近は年もとったので官職に引っ込み、数年に1度だけこうしてトラブルがあったときだけ本気を出す人、なんだそうです。(相手の会社より強い会社の偉い人と友達だった、という噂)
よくよく考えると、部署の長が毎日ネットサーフィンをしているのに業務が問題なく回っているというのはすごいことです。
運用が整備され、人員が適切に置かれているということです。長の判断を直接要するような問題は数年間も起きないほど完璧に。
多分このオッサンは超優秀なんだろうと思います。
というわけで、僕の目標は窓際族になることです。
組織をきちんと作る。人を育て、運用を固め、ほとんど全てのことは現場で回るようにする。
そうしてはじめて窓際族になれるのです。
簡単ではありませんが、こういうオッサンになれると良いな〜と思っています。
あなたの職場の窓際族のオッサンも実は超優秀な人かもしれませんよ。
おしまい。
※この物語は事実に基づいていますが、当事者たちにバレると怖いので一部脚色しています。もし「あ、これ俺の話やん」という方がいましたら、ご連絡いただけましたら更に脚色します。